小説

宮田眞砂『夢の国から目覚めても』|「百合」の外側にある社会、社会の内側にある「百合」

宮田眞砂『夢の国から目覚めても』を読みました。 www.seikaisha.co.jp † この作品の一番の特徴、それは二部構成で視点を変えて描かれることだろう。 第一部「夢の国から目覚めても」では、あらすじどおり、百合同人漫画の執筆に勤しむレズビアンの有希がそ…

日影丈吉『墓碣市民』|主題によって増幅される恐怖

日影丈吉「墓碣市民」(『新編・日本幻想文学集成』第1巻、諏訪哲史 編)を読みました。 www.kokusho.co.jp この短編を一言で説明すると、古めかしいインバネスを来た背の高い男の亡霊と出会う幽霊譚、ということになる。しかし、いろいろ〈ずれている〉とこ…

中上健次『鳳仙花』|一族の歴史を描くということ

中上健次「鳳仙花」(池澤夏樹編「日本文学全集」、河出書房新社)を読みました。 www.kawade.co.jp 紀州の海はきまって三月に入るときらきらと輝き、それが一面に雪をふりまいたように見えた。フサはその三月の海をどの季節の海よりも好きだった。三月は特…

ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」|死者の記憶とのつきあいかた

ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」(鴻巣友季子 訳)を読みました。 www.kawade.co.jp [まさに染みひとつない海ね。リリー・ブリスコウはそう思いながら、入り江を見晴らしてまだ立ちつくしていた。入り江にはまるで絹のようになめらかな海の面が広がっている…