読書メモ:イアン・ハッキング『マッド・トラベラーズ』

イアン・ハッキング/ [江口重幸] 訳 , [大前 晋] 訳 , [下地明友] 訳 , [三脇康生] 訳 , [ヤニス・ガイタニディス] 訳(1998→2017)『マッド・トラベラーズ──ある精神疾患の誕生と消滅』岩波書店 www.iwanami.co.jp ほんとうに面白い。ある精神疾患は社会に…

読書メモ:バーナード・レジンスター『生の肯定』

バーナード・レジンスター/岡村俊史/竹内綱史/新名隆志【訳】(2006→2020)『生の肯定——ニーチェによるニヒリズムの克服』法政大学出版会 www.h-up.com レジンスターはニーチェの「力への意志説」を〈自分のやりたいこと(1階の欲求)をやっているときに直…

読書メモ:加島卓『〈広告制作者〉の歴史社会学』

加島卓(2014)『〈広告制作者〉の歴史社会学——近代日本における個人と組織をめぐる揺らぎ』 はじめに第一章 〈広告制作者〉と歴史社会学 一 問題意識:理解への問い 二 研究対象:〈広告制作者〉という職業理念 三 研究方法:事象内記述 四 先行研究:〈広…

読んだもの:『取り替え子(チェンジリング)』

大江健三郎(2000/2004)『取り替え子(チェンジリング)』講談社 『取り替え子』(大江 健三郎):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部 物語は自殺した義兄の死の謎をめぐって展開される。いたってシンプルなサスペンスの構造で、かなり読みやすい。なぜあの明る…

読んだもの:松波太郎『カルチャーセンター』

松波太郎『カルチャーセンター』(書肆侃侃房、2022) https://amzn.asia/d/dlH8Ad7 *読んだのは2023年。Kindle版にて。 この作品は、①カルチャーセンターを舞台にした小説教室の物語、②①において書かれたとされるニシハラの小説「万華鏡」全編、③①の登場人…

宮田眞砂『夢の国から目覚めても』|「百合」の外側にある社会、社会の内側にある「百合」

宮田眞砂『夢の国から目覚めても』を読みました。 www.seikaisha.co.jp † この作品の一番の特徴、それは二部構成で視点を変えて描かれることだろう。 第一部「夢の国から目覚めても」では、あらすじどおり、百合同人漫画の執筆に勤しむレズビアンの有希がそ…

日影丈吉『墓碣市民』|主題によって増幅される恐怖

日影丈吉「墓碣市民」(『新編・日本幻想文学集成』第1巻、諏訪哲史 編)を読みました。 www.kokusho.co.jp この短編を一言で説明すると、古めかしいインバネスを来た背の高い男の亡霊と出会う幽霊譚、ということになる。しかし、いろいろ〈ずれている〉とこ…

中上健次『鳳仙花』|一族の歴史を描くということ

中上健次「鳳仙花」(池澤夏樹編「日本文学全集」、河出書房新社)を読みました。 www.kawade.co.jp 紀州の海はきまって三月に入るときらきらと輝き、それが一面に雪をふりまいたように見えた。フサはその三月の海をどの季節の海よりも好きだった。三月は特…

ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」|死者の記憶とのつきあいかた

ヴァージニア・ウルフ「灯台へ」(鴻巣友季子 訳)を読みました。 www.kawade.co.jp [まさに染みひとつない海ね。リリー・ブリスコウはそう思いながら、入り江を見晴らしてまだ立ちつくしていた。入り江にはまるで絹のようになめらかな海の面が広がっている…